「あおくんときいろちゃん」考

色を混ぜるように考え方が混じり合うといい、そんな話になった。

二つの色が混ざるというと、すぐにこの絵本が頭に浮かぶ。

 

あおくんときいろちゃん (至光社国際版絵本)

あおくんときいろちゃん (至光社国際版絵本)

 

 

「あおくん」と「きいろちゃん」が仲良く遊んでいるうちに、混じり合って色が変化し、「みどり」になる。遊び疲れて家に帰ろうとすると、それぞれの家の親たちは「うちのあおくん/きいろちゃんじゃない」という。

かなしくなった二人は泣いて泣いて。「あおいなみだ」と「きいろいなみだ」を流すうちに、涙だけになってしまう。そしてまた、「あおくん」と「きいろちゃん」に戻り、親たちにも理解してもらえて、めでたしめでたし、というストーリーである。

 

ずっと前から知っていた絵本だったが、ふと、思いつく。

「みどり」になってから、またふたたび分かれた「あおくん」と「きいろちゃん」は、見ためは元通りでも、「みどり」として体験したうれしいたのしい時間を取り込んだ後なのだから、以前とは世界が違って見えているのではないのか。

などと思い始めてしまうと、ちゃんと読み直してみたいという気持ちになり、せっかくなので原著も調べてみることに決めた。

 

Little Blue and Little Yellow: A Story for Pippo and Other Children
 

 

こうしたとき、すぐに揃うのは書店より公共図書館である。

近隣にある図書館で所蔵しているところを調べ、日本語版も英語版も両方在庫している図書館に行って借りてきた。

ちなみに、日本語版は買い求めようと近隣の書店の何軒かに問い合わせたが、「その出版社は取り扱いがない」ということでどこも注文だった。

長く読み継がれてきた絵本ではあるが、意識して揃える専門店でないと置いていないものなのだなと実感した。『スイミー』などは置いている店もあった。

並べてみると顕著だったのだが、日本語版と英語版で色合いや紙質がかなり違っている。

【日本語版】

光沢がありざらざらした手触りの厚手の白い紙。あおくんの色合いは明るい水色。全体的に他の色もパステル調で、明るい。

【英語版】

普通の薄い紙。真っ白ではない。あおくんの色は紺色。全体的に他の色も濃く、暗い。

 

ただ、日本語版については2004年の版なので、もっと以前の版では違ったかもしれない。それにしても、日本語版の淡い色合いの方が明るく見えてよい。

 

さて、タイトル。日本語版では「あおくん」「きいろちゃん」としているが、男の子と女の子なのだろうか。

英語版は" little blue and little yellow " であり、別に「あおちゃん」「きいろくん」でも良さそうに思う。本文を確認してみた。

Here he is at home with papa and mama blue.

Little blue has many friends but his best friend is little yellow who lives across the street.

「あおくん」は " he " であり、彼。つまり男の子らしい。

対して日本語は

あおくんの おうち ぱぱと ままと いっしょ

おともだちがたくさん

でも いちばんの なかよしは きいろちゃん

きいろちゃんの おうちは とおりの むこう

となっている。

おお、ぱぱとまま、原著では " papa blue "  " mama blue " となっているのだな。

 その後読み進んだが、yellowについては " he " や " she " といった表記はなく、" little yellow " または " they " になっていた。男の子でも女の子でもいいわけだ。

しかし、よく考えてみたら、日本で小さな子どもに対し使う呼称としては「~ちゃん」の方が、「~くん」より圧倒的に多い。「きいろちゃん」は、" little yellow " 同様に、男の子でも女の子でもどっちでもよい呼称として間違っていないし、むしろ、" little blue " を「あおくん」としているところが " he "を上手にいかした訳ということになる。

 

「あおくん」と「きいろちゃん」が 街角で劇的に(?)出会って、喜び合っているうちに一体の「みどり」になるシーンについては

 Happily they hugged each other and hugged each other until they were green.

 よかったね あおくんと きいろちゃんは うれしくて

もう うれしくて うれしくて

とうとう みどりに なりました

ここも日本語のほうがいいなと感じる。

日本にはhugする文化がまだまだそれほど浸透していない。色がかわるまでhugするのではなく、「うれしくて もう うれしくて うれしくて」とすることで、やっと会えた嬉しさとか、嬉しさのあまり変化したということへのつながりが、すんなり入ってきやすい。

面白いな。

 

なお、Google「あおくんときいろちゃん」+「国会図書館で検索すると、さらに興味深いことが分かる。

 

絵本『あおくんときいろちゃん』の翻訳をめぐって : 1998-02|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

どうやら既に、この翻訳について着目した論文があるようだ。

 

さらに、別のリンク先。


crd.ndl.go.jpよせ

こんな質問が公共図書館に寄せられており、回答として各国の翻訳されたものへのリンク集が紹介されていた。

リンク先をのぞいてみたが、各国版の表紙の画像を見るだけでも、やはり色合いの違いが感じられた。

 

きっとそれぞれの国で一番 なじみやすい言い回しや、その国の光の中で一番 しっくり受け入れられる「あお」と「きいろ」で印刷されているのだろう。

 

それぞれの国の色。それぞれの国で絵本を読むときの、暮らしの中の光。

それらを想像しながら「あおくんときいろちゃん」を眺めていると、一冊の絵本から広がる世界にぐっときてしまう。

 

ちょっとした思いつきから本へつながって、また本から別の発想につながっていく。 

なんと面白いことだろう。